ガーデン王国4「大雨の魚とり」
この物語は、ガーデン王国と呼ばれるバーチャル(仮想世界)で起きたフィクション(作り話)を書いている。ガーデン王国には、色々な国王や姫の他に、レオル・ファティルと呼ばれる白い妖精やジョイル・ビルと呼ばれる黒い妖精などもいた。
大雨は、時として大きな災害をもたらすが、時として大きな思い出をもたらすものである。特に夏の大雨は、突然、集中的に降り、人生において多くのドラマを生み出すものではなかろうか。。。
ガーデン王国の国王にも、思い出に残る大雨がいくつかあった。
ある日、国王は、レオル・ファティルと呼ばれる白い妖精をあやつる少女に誘われ、不老長寿の仙人が住むという王国の南方にある魔界へ、その妖精を愛でる王子を初めて連れていった。国王は、成人となって以来、夏になると、馬車に乗ってこの魔界に入り、多くの霊力を身につけていった。
レオル・ファティルをあやつる少女は、魔界に入ると、「不思議な棒」を持ち、魚の形をした妖精がいる川を探しまわった。妖精がいそうな川を見つけると、少女は馬車をとめさせ、1人で川の中へ下見にいった。川の中は、真夏でも冷たく、「黒い戦闘服」を着てないと凍えるぐらいであった。
初めて魔界へやって来た王子は、まだ「黒い戦闘服」を持っていなかった。王子は、普段着のまま下見に向かった少女の後をついて行った。少女が、比較的穏やかな流れの川の中に入り、魚の形をした妖精を探していると、王子も「不思議な棒」を持って初めて川の中へ入っていった。
真夏の日差しの下、王子が魚の形をした妖精を追いかけ始めると、突然、雲行きが怪しくなり、急に大雨が降り始めてきた。王子は、雨にぬれ始めても、妖精を捕まえることをやめようとしなかった。まるで、雨が降っていることに気づいてないようでもあった。王子は、冷たい川の水と雨にぬれて体温をどんどん奪われていった。
馬車で待っていた国王は、雨が降り始めても、下見から帰って来ない王子と少女のことが心配になってきた。そこで、国王は、傘を持って王子と少女の所へ向かい、急いで川からあがり馬車へ戻って暖かくするように大声で叫んだ。少女は、国王の声に従って川からあがったが、王子は、ビショぬれの髪をかき上げながら、一生懸命に魚の妖精を追い続けていた。穏やかな川の水面は、雨粒の波紋が広がり、川の中の妖精が見えないのに、不思議な棒を使って追いかけていた。。。
国王は、風邪を引くことも、魚の妖精が見えないことも、何も気にしないで、ただひたすら妖精を追っている王子の姿が、何とも言えないぐらい愛おしく思えた。そこまでして、魚の妖精を取りたいことが、不思議であり、斬新であり、意外であった。国王は、川からあがらなくてもいいから、せめて着替えてカッパを着てから妖精を追いかけることを勧めた。王子は、「分かった」と言いながらも、いっこうに川からあがってこない。
国王は、自ら傘を持って川へ入り、王子の上に傘を広げてあげることしか出来なかった。大雨の中、王子が川の中を移動するのにあわせ、傘をかざした国王が移動するのであった。これが、国王にとって、王子が初めて魚の妖精を取っている姿となり、真夏の大雨の思い出となったのであった。
真夏の大雨の中、1本の傘をさしながら魚の妖精を追っている国王と王子の姿、山深い魔界に住む仙人には、どのように映っていたのであろうか。。。
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